対話・関係
よく聴くことは、仕事の成果にもつながる?
アクティブ・リスニングActive Listening
相手の言葉の中身と気持ちの両方を聴き、評価や助言を控えて、自分の言葉で返して理解を確かめる聴き方。
30秒でわかる
何に使うか
上司と部下の面談のように、職場で相手の本音を聞きたい場面で使う。原典はもともと職場の上司と部下の会話を想定している。
根拠はあるか
中くらい。よく聴いてもらえていると感じることは仕事の成果や人間関係と強く結びつくが、多くは自己申告の相関で、技法そのものの実験は少なく、効果は場面によって限定的である。
どう使うか
話の中身だけでなくその奥の気持ちに応え、相手の言いたいことを自分の言葉で返して、理解が合っているかを確かめる。原典は技法より態度を重んじていて、相手を尊重する気持ちが無いまま型だけ使うと見抜かれると警告している。
- アクティブ・リスニングは、相手の言葉の「中身」と「気持ち」の両方を聴き、評価や助言をいったん控えて、自分の言葉で返して理解を確かめる聴き方。8
- 原典は Carl Rogers と Richard Farson の1957年の小冊子(シカゴ大学 Industrial Relations Center とされる)で、職場の上司と部下の会話を想定している。図書館の書誌での発行元確認はできていない。8
- 原典がいちばん強調するのは技法より態度。相手を本気で尊重する気持ちが無いまま型だけ使うと、見抜かれる。
- 根拠は中くらい。「よく聴いてもらえている」と感じることは仕事の成果や人間関係と強く結びつく(r=.39)が、多くは自己申告の相関。4
- 技法そのものの実験では、言い換え+質問は「理解してもらえた」感覚を少し上げた(η²=.09)が、満足度や好感は助言と変わらなかった。言い換えだけでは「理解された」感覚は上がらなかった。12
- 日本では厚生労働省の「こころの耳」が管理職向けの手引きを載せている。ただしこれは手引きであって、効果が確かめられた証明ではない。日本の企業での研修報告は、対照群のない前後比較にとどまる。1013
手順と記入例は準備中です。上の「どう使うか」と、「要点」をご覧ください。
評価: 中(「よく聴いてもらえている」と感じることと良い結果の結びつきの証拠は厚い。ただし相関が中心。Rogers & Farson の技法そのもの、特に「言い換え」を確かめた実験は少なく、効果は小さい)。
- 技法そのものの実験①(言い換えだけ): Weger, Castle & Emmett (2010) *International Journal of Listening* 24(1), 34-49。大学生180人の面接で、聞き手が「言い換え(paraphrase)」で返す条件と、短いあいづちだけの条件を比べた。言い換えは聞き手の好感度(social attractiveness)を上げたが、「理解してもらえた」という感覚や会話の満足度とは関連しなかった(UCF の書誌ページの要旨を確認。本文の数値は未確認)。1
- 技法そのものの実験②(傾聴 vs 助言 vs あいづち): Weger, Castle Bell, Minei & Robinson (2014) *International Journal of Listening* 28(1), 13-31。大学生115人が、訓練を受けたサクラ10人と初対面で4〜5分(平均4.9分)話した。サクラは「アクティブ・リスニング(言い換え+必要に応じて質問)」「助言」「あいづちだけ」のどれかで応じた(サイコロで割り当て)。本文 PDF を開いて数値を確認した。23
- 「理解してもらえた」感覚: 条件の差あり、F(2, 20.68)=3.79, p=.04, η²=.09。アクティブ・リスニングは助言・あいづちのどちらよりも高かった。
- 会話の満足度: F(2, 19.64)=5.81, p=.01, η²=.12。アクティブ・リスニングはあいづちより高いが、助言とは差がなかった。
- 相手への好感: F(2, 21.65)=6.11, p=.008, η²=.09。同じくあいづちより高いが、助言とは差がなかった。
- 著者自身が挙げた限界: 実験室で見知らぬ人と話す場面で、一般化に限界がある。参加者は主に若い白人女性の大学生。身ぶりなど言葉以外の振る舞いは操作していない。
- 周辺領域のメタ分析(「聴かれている」と感じること): Kluger, Lehmann, Aguinis, Itzchakov ほか (2024) *Journal of Business and Psychology* 39(2), 295-344。事前登録した系統的レビューで、664の効果量・400,020件の観測。「上司などによく聴いてもらえている」という知覚と仕事の結果の相関は平均 r=.39(95%CI .36〜.43、補正後 ρ=.44)。人間関係の質とは r=.51、仕事の成果とは r=.36。ただし研究の75%が自己申告に頼っていた。自己申告だけのデータを除くと、成果との相関は r=.21(95%CI .13〜.29)に下がる(ヘブライ大学の書誌ページの要旨で確認)。これは Rogers & Farson の技法を検証したものではなく、相関であって因果ではない。4
- 研究者による整理(レビュー): Kluger & Itzchakov (2022) *Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior* 9, 121-146(書誌は HUJI のページ、本文は採録前の原稿 PDF で確認)。56
- 「active listening」という言葉は企業で「言い換えなどの技法の集まり」の意味に使われるようになり、Rogers が意図した意味を失った、としてこの言葉の使用を避けている。
- 傾聴研修は「聞き手の行動」を変えることは示されているが、話し手(客・患者・部下)が変化に気づいたことを示した研修評価は見当たらない、と書いている。
- 実験室で「普通より良い聴き方」を作り出す方法ははっきりしない(聞き手の気を散らして「悪い聴き方」を作るのは簡単)。
- 授業では「多くの学生が言い換えの機械的なやり方に抵抗する」とも書いている。
- 日本の研究(上司の傾聴と部下のストレス): Mineyama, Tsutsumi ほか (2007) *Journal of Occupational Health* 49(2), 81-87。男性上司41人と部下203人の調査で、上司の傾聴の態度・技術が高いほど部下のストレス反応が良好だった(若い部下で目立ち、年長の部下では差が無かった)。要旨には統計値の記載が無く、一時点の調査なので因果は言えない。7
- カウンセリング研究での支持: 既存解説は「カウンセリング研究では支持が多い」と書くが、今回は確認していない。
うまくいかなかった例と批判
- 「言い換え」だけでは「理解してもらえた」感覚は上がらなかった(Weger 2010)。1
- 初対面の会話では、満足度と好感は「助言」と差がなかった(Weger 2014)。2
- Kluger & Itzchakov (2022) は、「active listening」が企業で技法の寄せ集めに変わり Rogers の意図を失った、組織が機械的に「アクティブ・リスニングを」と求めるのは Rogers の意図に反する、と批判している(Tyler 2011 を引用)。言い換えをするコンピュータ・プログラム(1960年代の ELIZA)でも「理解されている」と感じさせられる、という指摘もある。6
- 同レビューは、研修で聞き手の行動は変わっても、話し手が変化に気づいたと示した評価は見当たらない、としている。
- Rogers & Farson 自身も「態度が伴わない技法は中身がなく、見抜かれる」と警告している。8
- 「傾聴研修をやめた」と公言した組織は見つからなかった。
組織自身が使ったと公表した例
- なし(確認できた範囲で)。
近縁実践・参考例(原典との対応未確認・事例には数えない)
- Samaritans(英国の自殺予防・心の支援の慈善団体)/日付の記載なし/支部の公式ページ。North London 支部はボランティアを「active Listening Volunteers」と呼ぶ(17 )。Hastings and Rother 支部は条件として「次に何をすべきか言わずに聴ける」「偏見を持たない」を挙げる(18 )。Horsham and Crawley 支部は「傾聴スキルの研修を3時間×8回」と書く(19 )。/結果: 効果の数値は無い。Rogers & Farson の名前や、この型に沿っているという記述は無い。「評価せず、指示せずに聴く」という点が一致するだけなので、参考例として扱う。
- FBI(米連邦捜査局)の危機交渉部門: 検索結果の要約では、FBI の機関誌が「active listening skills を中核技法として支持」「1990年に Carl Rogers のカウンセリング分野から取り入れた」と書いているとされたが、ページは 403 エラーで開けず未確認。事例数に含めない。9
研究報告における実施例(組織名非公表・前後比較。実施は効果の証明ではない)
- 電子機器製造業の A 事業場(従業員1,900人)/研修は2006年9〜11月/池上和範ほか「積極的傾聴法を取り入れた管理監督者研修による効果」産業衛生学雑誌 50(4), 120-127, 2008年(J-STAGE の抄録を確認)/一般社員を直接管理する全管理監督者に研修。/結果: 管理職の傾聴態度尺度(ALAS)は「時期の主効果は有意でない」(「聴き方」は有意傾向)。社員側の調査で「上司の支援」「同僚の支援」「仕事の量的負担」が研修後に有意に上昇し、47課のうち8課で「上司の支援」が有意に上昇。対照群の記載は無く、前後比較のみ。著者は産業医科大学の研究者。10
- 総合化学会社の事業所(従業員約1,400人)/2007年5月〜2008年3月/Tatsumi A, Sumiyoshi K, Kawaguchi H, Sano Y(漢字表記は未確認)、英題「The Effect of Short-Time Active Listening Training」産業衛生学雑誌 52(2), 81-91, 2010年(J-STAGE の英語抄録を確認。日本語題は未確認)/管理職229人に2.5時間の研修を21回。/結果: 6か月後に81.4%が内容を覚えており、49.7%が実践していると回答。ALAS は「聴き方」が有意に上昇、「態度」は上昇したが有意でない(4回すべて回答は84人)。対照群なし、自己申告中心。著者は旭化成の健康管理センター所属だが、抄録に社名は無い。11
手引き・解説(使用実績ではない)
- 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(2006年3月31日、2015年11月30日改正): 管理監督者への教育研修の項目に「労働者からの相談対応(話の聴き方、情報提供及び助言の方法等)」がある。「傾聴」「積極的傾聴」という語は本文に無い(PDF 本文で確認)。12
- 厚生労働省「こころの耳」(働く人のメンタルヘルス・ポータル): 「部下や社員の話を聴く際に大切な『積極的傾聴』のポイントと練習方法」として7ページの手引きを掲載。「メンタルヘルス教育研修担当者養成研修テキスト」(平成22年、厚労省・中央労働災害防止協会)を参考に作成、と明記。日付・監修者の記載なし。13
- 「積極的傾聴(Active Listening)」は「カール・ロジャーズによって提唱」と書き、Farson の名は無い。3要素として共感的理解・無条件の肯定的関心・自己一致を挙げるが、これは Rogers のカウンセリング理論の3条件で、1957年の小冊子の構成そのものではない。14
- 「日本では産業保健分野、特に管理職研修で広く使われている」と書くが、数値の裏付けは無い。研修方法は三島徳雄・久保田進也『積極的傾聴を学ぶ』(中央労働災害防止協会、2003年)の「体験的発見的学習方法」。15
- 効果のページは「傾聴態度が1か月後・3か月後に有意改善」「上司の支援が有意に改善」「1か月以上の休業者数が有意に減少」と紹介し、池上ほかの論文を「2007年」としている。実際の掲載は2008年で、池上論文の抄録では傾聴態度の時期の効果は「有意でない」、休業者数の記載は無い。どの主張がどの文献によるのか、ページからは分からない(休業者数の根拠は未確認)。1016
- 研修会社・HRメディアの解説記事は多数あるが、いずれも解説・宣伝で、使用実績の公表ではない。
まとめ: 組織自身の公表例は「なし」。研究報告における実施例は日本の2件(いずれも組織名非公表・前後比較のみ)。Samaritans と FBI は近縁実践・参考例で、Rogers & Farson の型との対応は未確認。
- 原典: Carl R. Rogers & Richard E. Farson「Active Listening」(1957年、シカゴ大学 Industrial Relations Center とされる)。英語で短く、2021年に Mockingbird Press から復刻版(ISBN 978-1-953450-25-8)が出ている。抜粋は Gordon Training International の PDF で無料で読める。820
- 邦訳: 見つけられなかった(未確認)。
- 日本語の入口: 厚生労働省「こころの耳」の「積極的傾聴」ページ(無料)。ただし上記のとおり出典年などに誤りがあるので、原典の説明としては使わない。13
- 研究の入口: Kluger & Itzchakov (2022)「The Power of Listening at Work」*Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior*(英語論文)。5
原典で確かめたこと
- 提唱者・年・発行元: Carl R. Rogers と Richard E. Farson の小冊子「Active Listening」。Gordon Training International が配布している抜粋版 PDF を開いて確認した。冒頭に「Excerpt from 1957 article, Chicago (University of Chicago Industrial Relations Center) (25 pp.)」とあり、1987年に論集『Communication in Business Today』(Newman, Danziger, Cohen 編、Heath and Company)に再録されたと書かれている。8
- 書誌での確認: Google Books の書誌(開いて確認)は 2021年の Mockingbird Press 版の復刻(40ページ)で、「原著は1957年」とだけ書かれていた。発行元までは書かれていない。20図書館の書誌(WorldCat、OCLC 7022047)は 403 エラーで開けなかった。検索結果の要約では「Industrial Relations Center, the University of Chicago, 1957」と出ていたが、ページ本体は未確認。21
- まとめ: 「1957年、シカゴ大学 Industrial Relations Center」は、再録版の頭書き(研修会社 Gordon Training の PDF)で確認できた。図書館の一次書誌では未確認。ページ数は 25ページという記録と 20ページという記録があり、一致しない(後者は検索要約のみ、出典URL: 未確認)。
- 「この冊子が active listening という言葉を作った」か: そう書く解説はあるが、直接の根拠は開いていない。公開ページでは「職場向けに active listening を説明した代表的な文献」と書くにとどめる。
- 原典の主張(自分の言葉で): 抜粋版 PDF を読んで確認した。8
- 長い時間をかけて愚痴を聞くことではなく、仕事の日常で起きる問題への向き合い方である。
- まず態度が先。相手の価値を尊重し、相手が自分で考える力を信じる気持ちが無いまま「技法」として使うと、中身のない振る舞いになり、相手にすぐ見抜かれる。
- 避けること: 相手を自分の見方に変えようとする説得・叱責・励まし。ほめる・けなすを問わず評価すること。助言や情報の提供(相手を変えようとする試みと受け取られ、本音を話す妨げになる)。
- すること: ①言葉の「中身」と、その奥の「気持ち」の両方=全体の意味を聴く(例: 工員の「やっと終わったよ、あの忌々しい旋盤の段取り」に、すぐ次の仕事を渡すのではなく「終わってほっとした?」と返す)。②気持ちに応える。③言葉以外の手がかり(ためらい、声の調子、表情、姿勢、呼吸)にも気づく。④相手の言いたいことを自分の言葉で返して、理解が合っているかを確かめる(「相手が納得するほど伝え返せるまでは、理解したと思わない」)。
- 難しさ: 相手の見え方に本気で立つと、自分の考えが変わってしまう「個人的なリスク」があり、心の安定と勇気が要る。
- 原典は「臨床と研究の証拠がはっきり示している」と書くが、抜粋版にはその研究の名前や数値は書かれていない。
出典
- stars.library.ucf.edu/scopus2010/1477 ↩
- fellow.app/wp-content/uploads/2022/01/The-Relative-Effectiveness-of-Acti ↩
- stars.library.ucf.edu/scopus2010/9657/ ↩
- cris.huji.ac.il/en/publications/a-meta-analytic-systematic-review-and-th ↩
- cris.huji.ac.il/en/publications/the-power-of-listening-at-work/ ↩
- leibniz-psychology.org/fileadmin/user_upload/pdf/il_Kluger-and-Itzchakov ↩
- www.jstage.jst.go.jp/article/joh/49/2/49_2_81/_article ↩
- www.gordontraining.com/wp-content/uploads/Active_Listening.pdf ↩
- leb.fbi.gov/articles/featured-articles/fifty-years-of-fbi-crisis-hostage ↩
- www.jstage.jst.go.jp/article/sangyoeisei/50/4/50_E7008/_article/-char/ja ↩
- www.jstage.jst.go.jp/article/sangyoeisei/52/2/52_E9005/_article/-char/en ↩
- www.mhlw.go.jp/content/11300000/001671565.pdf ↩
- kokoro.mhlw.go.jp/listen/ ↩
- kokoro.mhlw.go.jp/listen/listen001/ ↩
- kokoro.mhlw.go.jp/listen/listen002/ ↩
- kokoro.mhlw.go.jp/listen/listen007/ ↩
- www.samaritans.org/branches/-north-london/volunteer-north-london-samarit ↩
- www.samaritans.org/branches/hastings/volunteering-information/ ↩
- www.samaritans.org/branches/horsham-and-crawley/volunteering-horsham-cra ↩
- books.google.co.jp/books/about/Active_Listening.html?id=OXZTzgEACAAJ&red ↩
- search.worldcat.org/title/Active-listening/oclc/7022047 ↩
各ページは確認日の時点で開けた資料にもとづきます。根拠の強さの決め方