戦略・事業
5フォースは、自社の勝ち方まで教えてくれる?
ポーターの5フォースPorter's Five Forces
業界の長期的な収益性を、既存企業同士の競争や新規参入の脅威など5つの力で説明する枠組み。
30秒でわかる
何に使うか
自社のいる業界や参入を考えている業界が、なぜ儲かるのか、儲からないのかを理解したいときに使う。自社がどう勝つかを直接教える道具ではない。
根拠はあるか
中くらい。産業組織論にもとづく理論は強いが、今回確認できた範囲では5つの力の評価が当たるかを直接確かめた研究は見つからず、業界の違いで説明できる収益差も約2割にとどまる。
どう使うか
業界の範囲を狭く決め、いちばん利益を奪っている力を1〜2個特定して、その力を弱める打ち手まで書く。リストを作って終わる使い方は、Porter 自身が誤用として挙げている。
- 5フォースは「業界がなぜ儲かるか/儲からないか」を説明する枠で、「自社がどう勝つか」を教える道具ではない。1
- 理論は強いが、「5つの力を評価すれば当たる」という直接の検証は確認できていない。業界の違いが説明する収益差は約2割(McGahan & Porter, 1997)で、事業固有の要因のほうが大きい。2
- Porter 自身が、リストを作って終わる、業界の範囲を誤る、静的に見る、といった使い方を誤用としている。1
- 使うなら、業界の範囲を狭く決め、「最も利益を奪っている力」を1〜2個特定して、その力を弱める打ち手まで書く。
- 組織が自分で「使った」と公表した例は、SWOT と違い、確認できた範囲では見つからなかった。有名でも、開示資料に名前が出る道具ではない点は知っておく。
手順と記入例は準備中です。上の「どう使うか」と、「要点」をご覧ください。
評価: 中(理論は強いが、5フォースそのものを直接検証した研究は今回確認できていない)
- 理論面: 産業組織論に基づく。2008年版でも自身の論理を維持している(確認)。1
- 実証面(業界要因そのものの大きさ): McGahan & Porter (1997)「How Much Does Industry Matter, Really?」, Strategic Management Journal 18(S1), pp.15-30。米国上場企業の収益性のばらつきのうち、年・業界・親会社・事業固有の効果が約2%・19%・4%・32%。業界効果は製造業で小さく、サービス・小売・運輸などで大きい(要旨を確認)。つまり業界の違いは収益差の約2割で、事業固有の要因のほうが大きい。ただし、これは「業界の影響」を測った研究であり、5つの力の評価が当たるかを検証したものではない。2
- 後続のメタ分析: Vanneste (2017), Strategy Science 2(2), pp.121-139。16研究18サンプルの統合で、分散ベースの効果が業界0.08、全社0.14、事業0.36(要旨を確認)。測り方で数字が変わるため、McGahan & Porter の19%と単純比較はできないと著者も述べる。3
- 批判の方向(確認できた範囲): Porter 自身が、静的分析や業界の定義ミスを「落とし穴」に挙げている。外部の批判は下記「失敗・批判の公表例」。1
うまくいかなかった例と批判
- Kellogg Insight, 2013年1月7日「The End of Strategy? Our Faculty Discusses」: Monitor Group の破産(2012年11月)を受け、Steve Denning が「5フォースは、顧客に良い製品を提供するよりも業界構造で超過利潤を得ることに戦略家を向かわせた。誤り(conceptual error)だ」と批判した。これに対し Kellogg の教員8名が、藁人形論法だ(Garthwaite)、誤用はあっても無用ではない(Hubbard)、戦略計画を出すものではなく、見るべきデータを選ぶ道具だ(Dranove)、などと応じた。批判者本人の記事は未確認で、批判の内容は教員側ページ経由。5
- Michael Porter 本人(HBR 2008): 自ら誤用を挙げる。業界の範囲を広く/狭くとりすぎる、リストを作るだけで終わる、静的に見る、一時的な変動を構造変化と混同する、「魅力がある/ない」と判定するだけで終わり戦略選択に使わない、など(本文確認)。1
なお Grundy (2006)「Rethinking and reinventing Michael Porter's five forces model」(Strategic Change 15, 213-229)が、抽象的で硬直的との批判を述べるとされるが、検索結果の要約のみで本文は未確認のため、批判例には数えない。4
① 組織自身が使ったと公表した例(数えるのはここだけ)
- なし(確認できた範囲で)。5フォースは、決算説明資料・統合報告書・自治体計画などで名称を明示して開示している例が、今回の調査では見つからなかった(SWOT と対照的)。条件(日本2件以上)は満たせなかった。
② 研究・評価として公表された試行/研究報告における実施例
- なし(確認できた範囲で)。
③ 近縁実践・参考例(原典との対応未確認)
- Andrew S. Grove(Intel 元CEO)/1996年/著書『Only the Paranoid Survive』(Currency Doubleday、224ページ。書誌は Emerald の書評で確認)/Porter の『Competitive Strategy』に拠って競争環境を見る6つの力を使い、Porter の5つに「補完業者(complementors)」を足した、と複数の二次資料が述べる/何に使い: 急激な変化(10X の変化)が起きている力を見つけるため/どうなったか: 書評・解説は変化の見つけ方を論じる。Intel での具体的成果は確認できていない。本書そのものは未確認で、内容は書評ページと解説ブログ経由の確認。海外・個人(元経営者)。6 自身の公表ではなく元CEO個人の著書で、5つの力に補完業者を足した6つの力の版。本書は未確認のため③に置いた】
④ 手引き・解説(使用実績ではない)
- サイバーフォレスト株式会社(日本)/2026年7月31日/同社の公式 note「[FW-03] What is 5F Analysis?」/自社の CBT-Medical 事業を例に5つの力を評価(競合: 中、新規参入: 中〜やや高、代替品: 中、売り手: 低〜中、買い手: 中〜やや高)/結論と打ち手: 業界知見と導入実績で差別化、実績づくり、特定エンジニアや顧客への依存を減らす、など/ただし記事自身が「例示のために作成」としており、実際の社内評価ではない。成果は不明。7、使用実績ではないため④に置いた】
- Tomasz Tunguz(ベンチャー投資家)/2016年1月26日/個人ブログ「The Question to Ask Before Starting a Company in 2016」/創業者は起業アイデアを5フォースで評価し、持続的な参入障壁のある案を選ぶべきだと推奨/成果の記載はなし(予測の記述)。これは「使った」報告ではなく「使うべきだ」という推奨なので、事例としては弱い。8
- 要追加調査: 日本企業が統合報告書・中計で「ファイブフォース」と明示している例。サイバーフォレストの記事(例示)以外は未発見。
まとめ: 組織自身が使ったと公表した例は「なし」。Grove の著書は6つの力の版で③(近縁・参考例)、サイバーフォレストの例示記事と Tunguz 氏の推奨は④(解説)に置いた。
- 原典: M.E.ポーター『[新訂]競争の戦略』(土岐坤・中辻萬治・服部照夫訳、ダイヤモンド社、1995年3月、500ページ、ISBN 978-4-478-37152-7)。出版社ページで確認。ただし重厚で、若手が最初に通読する本ではない。9
- 入門: ジョアン・マグレッタ『マイケル・ポーターの競争戦略 エッセンシャル版』(櫻井祐子訳、早川書房、2012年9月21日、ISBN 978-4-15-209320-2)。書店ページで確認。マグレッタは2008年論文の執筆にも協力している(HBRの編集者注で確認)。10
- 最短: Porter, HBR 2008 論文(英語、約20ページ)。誤用の注意点がまとまっているので、5フォースを使う前に読む価値が高い。
原典で確かめたこと
- 提唱者: Michael E. Porter(ハーバード・ビジネス・スクール)。
- 1979年論文: 「How Competitive Forces Shape Strategy」, Harvard Business Review, 1979年3-4月号(HBRのページで号と題名を確認。巻号・頁 57(2) pp.137-145 は検索結果の書誌で、本文は未確認)。Porter の HBR 初の論文(2008年版の編集者注で確認)。111
- 書籍: 『Competitive Strategy』(1980)。日本語訳は『[新訂]競争の戦略』。1980年という年は Emerald の書評ページの記述で確認。原書は未確認。12
- 2008年改訂: 「The Five Competitive Forces That Shape Strategy」, HBR, 2008年1月(リプリント R0801E)。Jan Rivkin と Joan Magretta の協力を得て、1979年の論文を「再確認・更新・拡張」し、よくある誤解も扱うと編集者注にある。本文(IBM サイトにあるリプリントPDF)を実際に読んで確認した。113
原典が主張していること(2008年版の本文と要旨の確認結果を自分の言葉で):
出典
- public.dhe.ibm.com/software/data/sw-library/cognos/pdfs/articles/art_the ↩
- ideas.repec.org/a/bla/stratm/v18y1997is1p15-30.html ↩
- ideas.repec.org:443/a/inm/orstsc/v2y2017i2p121-139.html ↩
- doi.org/10.1002/jsc.764 ↩
- insight.kellogg.northwestern.edu/blogs/entry/the_end_of_strategy_our_fac ↩
- www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/jcm.2003.20.4.377.3/full/htm ↩
- note.com/cyber_forest/n/nd91dadcd1c71【記事自身が例示と明記しており ↩
- www.tomtunguz.com/my-father-keeps/index.md【使用の報告ではなく推奨のため④に置いた】 ↩
- www.diamond.co.jp/book/9784478371527.html ↩
- www.maruzenjunkudo.co.jp/products/9784152093202 ↩
- hbr.org/1979/03/how-competitive-forces-shape-strategy ↩
- www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/jcm.2003.20.4.377.3/full/htm ↩
- store.hbr.org/product/the-five-competitive-forces-that-shape-strategy/R0 ↩
各ページは確認日の時点で開けた資料にもとづきます。根拠の強さの決め方